吉田照哉・社台ファーム代表、コラム「「我が国の競馬のあり方―」の最終報告書を読んで」を掲載

 【社台グループ「Thoroughbred」】 吉田照哉社台ファーム代表が、農水相の諮問機関「我が国の競馬のあり方に係る有識者懇談会」の最終報告書を読んでの感想を述べています。

 まず、ストレートな感想として「全体として釈然としない印象のほうが強く残った」と述べ、さらに、「根底的な部分において、地方競馬を救済しようとする意欲がまったく伝わってこない」、「極論すれば「採算がとれない地方競馬を助けるのは徒労である」とも受け取られかねないニュアンスには、いかにも他人事でお役所的な姿勢まで見せられてしまった」と批判。

 その上で、リストラクチャリングの本質は「本業への特化と回帰に基づいた財務体質の強化」であり、「単純な事業規模の縮小とは明らかに一線を画すもの」であるという一般論を前提とし、地方競馬中央競馬で能力を発揮できなかった馬の受け皿となっているという意義を強調。地方競馬は不要な不採算部門として切捨てられるべきではなく、「中央とともに同じ競馬産業の本業部門として包括的にその復権が検討されるべき」としている。

 さらに、「独立採算」や「自助努力」といったお題目だけを並べ、実質的には何の手立ても講じずに突き放すだけとなっている同報告書の無責任な姿勢を、「金のタマゴを産まなくなったガチョウは見捨ててしまえということか・・・」という、さる人からのコメントを引用して批判。地方競馬に対する国庫やJRAの財政的支援を、「一時凌ぎはかえって良くない」という紋切型で批判する見解に対し、「自助努力に限界があるから現状では経営支援を仰ぎつつ(中略)遠望的には一元化を念頭に入れた抜本的な体質改善の道を関係者は必死に探している」、「善後策的に中央だけでも守ろうという考え方は一見は合理的に見えますが、これは前向きさのはき違えであり、むしろ共倒れを決定づけかねない危険な発想」と反論している。

 最後に、「世界の馬券の売り上げの30%強を占める競馬大国の指針と呼ぶにはあまりに短絡的で、本当の意味での長期ビジョンが見据えられていないのはなんとも残念」、「われわれを含めた競馬関係者が、自らが身を置く産業に対してより広い視野とより愛情に満ちた視線に目覚め、再生に向けた議論がさらに積極的に展開されることを期待したい」とまとめている。

 最近、地方競馬の窮状をはじめとした日本の競馬の閉塞状況について、競馬メディア関係者からも厳しく批判する論調が見られるようになって来ました。そうした論調の多くが、(特に地方競馬の)絶望的状況を指弾した上で、現実にそうなのだからと悲観的展望を述べる一方となっているように思われます。しかし、現実を認識しなくては何の展望も開けないのと同様、厳しい現状を見て立ち尽くすだけではなんの役に立たないこともまた事実。厳しい現状を正面から見据えた上で、なお前向きに抜本的な改革を伴う長期的な展望を繰り出していくことが、競馬メディアも含めた競馬関係者になにより求められているのかもしれません。