エリザベス女王杯の枠順が証明!?もう止まらない”競馬大国ニッポンの完全国際化”

 エリザベス女王杯の馬柱を見て、「これはなんだ?」と首をひねったファンは少なくないだろう。「アナマリー」「タイガーテイル」という、まったく見慣れない馬名が並んでいるからだ。

 エリザベス女王杯は、平成11年から国際競走となったが、そのことを知っているファンは少なく、あるJRA関係者も、

エリザベス女王杯の国際レース化は大失敗」

と認めている。これまで有名外国馬の出走はなく、今年は2頭が出走こそするものの、その実態はお寒いもの。2頭とも一般のファンが知らないのも無理はなく、アナマリーは通算成績が18戦2勝、G2とG3を1勝しているだけで、タイガーテイルも12戦2勝、重賞勝ちはG3ひとつにとどまっている。血統的にも、「父アナバー」「父プリオロ」に反応できるのは、よほどの海外血統マニアだけだろう。アドマイヤグルーヴスティルインラブローズバドスマイルトゥモローといった「史上最強」とも言われる豪華ラインナップをそろえた日本馬に対して、この程度の馬で太刀打ちできるはずもない。JRAが頭を抱えるのももっともだろう。

 近年の「国際レース」と称するレースを見ていても、目立つのは日本馬の強さばかりである。同様に「国際レース」のはずの安田記念宝塚記念ジャパンカップダートでは、勝つのは日本馬ばかりだ。昨年のジャパンカップこそ外国馬のワン・ツーフィニッシュだったものの、それは中山開催で2200mという中途半端な条件になったから。勝利ジョッキーのランフランコ・デットーリ騎手ですら「もし府中2400mなら、シンボリクリスエスにはかなわなかったかもしれない」と認めざるを得ない現象は、日本競馬のレベルアップが行き着くところまで行ったという事実を物語っている。

 こうした実態に照らし、ホースマンの意識も変わりつつある。海外遠征といえば、香港かドバイが中心。一時は流行した凱旋門賞ブリーダーズカップへの遠征は、最近は下火になっている。

「昔はアメリカやヨーロッパにあこがれていたけど、最近はそうでもない。ジャパンカップで日本のトップホースが向こうの条件馬にひねられていた時代ならともかく、今は逆だからね」

とある厩舎関係者が語るとおり、巨額の費用とリスクを背負って海外遠征を決行するメリットが薄れているのだ。

 さらに本場の競馬の価値を落とすのが、本場のホースマン自身による、日本の国際レースの軽視だ。日本でも最も権威のある国際レースはジャパンカップだが、近年はそのジャパンカップにすら、米国や欧州のトップホースが参戦しようとしない。現地事情に詳しい評論家は、

「彼らはサンドピットトニービン、エリシオ、ファンタスティックライトといった本場の誇るトップホースたちが日本馬に蹴散らされるのを見て、衝撃を受けた。日本に遠征しなくなったのは、惨敗して馬の価値が落ちるのを恐れているのだ」

と指摘するが、これもあながち的外れな意見ではないだろう。その結果が日本の国際レースの空洞化であり、せっかく開放したエリザベス女王杯にG2馬、G3馬しか来ないという惨状なのだ。

 これらのレースの国際レース化は、外国の強い外圧に応えてようやく実現したという経緯がある。それなのに、いざ実現してみると強い馬を送らないというのは失礼な話だ。ただ、前出の評論家は、こうも語っている。

「ただ、日本への遠征は数年後に再びブームとなる可能性がある。それは、サンデーが死んでその子がいなくなったころだ」

 外国馬を蹴散らす日本馬といっても、その多くは歴史的大種牡馬サンデーサイレンスの産駒に集中していた。ならば、その永遠のスーパーサイヤーの血が途切れるのを待って、本場が日本競馬に「報復」を狙うというウルトラDは、戦略としては正しいかもしれない。しかし、このような低い志のホースマンたちが跋扈するようでは、「本場」の名が泣くといわれても仕方ないだろう。

 日本の競馬界に、サンデーサイレンスの死によって大きな混乱が生じることは避けられない。だが、サンデーサイレンスの死によって日本競馬が没落したのでは、「本場」意識だけで来世紀まで競馬を我が物にできると信じて疑わない人々に世界の競馬を委ねることになる。そのようなことがあってはならないのは当然だ。

 いまや実質的に世界一のレベルに達した日本競馬は、サンデーサイレンスによってもたらされた一大競馬文化を永遠のものとし、その財産を世界に還元するためにも、さらに積極的に海外の血の導入に励むべきだろう。彼らが競馬大国日本で厳しい競争にさらされることは、より高いレベルの競馬を生み出し、世界の競馬に貢献することになる。エリザベス女王杯のような形だけの「国際レース」を増やすよりは、その方がよほど真の「国際化」になるだろう―。(夕刊ミルキー編集委員・シエ尻馬文)

 この連載はフィクションであり、夕刊●ジ編集委員・シエ尻●文氏に捧げます。