競馬サブカルチャー論・第18回:馬と『ONE〜輝く季節へ〜』その3〜馬の蹄でも、嘶きでもない。けれども。〜

競馬サブカルチャー論とは

 この連載は有史以来常に人間とともに在った名馬たちの記録である。実在・架空を問わず全く無名の馬から有名の誉れ高き馬まで、歴史の決定的場面の中において何ものかの精神を体現し、数々の奇跡的所業を成し遂げてきた姿と、その原動力となった愛と真実を余すところなく文章化したものである。
 「永遠はあるよ。ここにあるんだよ。私が…ずっとそばにいてあげるよ。浩平の心は、私の中にあるんだよ。もう…どこにも行けないんだから。どこにも行かせてあげないんだから」「捕まえたっ…」「やっと捕まえたっ…」「浩平っ、捕まえたよっ」―馬は、常に人間の傍らに在る。
 その存在は、競馬の中核的な構成要素に留まらず、漫画・アニメ・ゲーム・小説・音楽―ありとあらゆる文化的事象にまで及ぶ。この連載では、サブカルチャーの諸場面において、決定的な役割を担ってきた有名無名の馬の姿を明らかにしていきたい。
 ※以下の記述・文中リンクには、18歳未満に販売されない商品に関するものを含みます。それから、ネタバレ全開です。
 
 0:競馬サブカルチャー論とは
 1:NEXTON/Tactics 『ONE〜輝く季節へ〜』より
 2:「ONE〜輝く季節へ〜」の四つの歴史的意義
  1:「To Heart」というフォーマットからの応用と脱却
   1:「To Heart」によるビジュアルノベル形式の完成
   2:"会話とエピソードの積み重ね"という「To Heart」のフォーマット
   3:「To Heart」から「ONE〜輝く季節へ〜」に至るまでの時代背景
   4:「ONE〜輝く季節へ〜」によるビジュアルノベル形式の応用〜恋愛ADV形式の復権
   5:「ONE〜輝く季節へ〜」における「To Heart」的フォーマットの応用
   6:"ヒロインと主人公の物語"という「ONE〜輝く季節へ〜」のフォーマット
  2:「永遠の世界」というガジェットのもたらした衝撃
  3:快楽系の希薄化と感動系(泣きゲー及び鬱ゲー)への端緒
   1:「To Heart」マルチ・シナリオにおける"泣きゲー"のシナリオ構成〜"キャラ萌え"からの帰納
   2:「ONE〜輝く季節へ〜」における"泣きゲー"のシナリオ構成〜"ヒロインの物語"からの演繹
   3:「ONE〜輝く季節へ〜」における"鬱ゲー"の端緒〜長森瑞佳シナリオの意義
  4:Key的世界観の出発点にして終着点
   1:失われた"恋愛"のかけらを求めて
   2:「夢」「奇跡」「空」「光」に関するメモランダム
 3:馬と「ONE〜輝く季節へ〜」
 4:主な先行文献と参考資料


馬と「ONE〜輝く季節へ〜

 ところで。ONE〜輝く季節へ〜」の世界観が、「馬」と表裏一体の関係にあるという重大な事実に、果たしてどれだけの人が気付いているだろうか。
 本作は、横浜市山下公園が舞台背景として登場すること*1からも察せられる通り、都心部郊外が舞台地として想定されている。競馬場があってもおかしくない立地なのだが、作中で競馬について言及されることはトンとない。これはKey系諸作品全般に当てはまることだが、馬が正面から出てくることは皆無なのである。
 しかし、このような理解の仕方は、本作の表層に惑わされたものであり、あまりにも短絡的に過ぎる。
 そもそも、サブカルチャー界においてジャンルを問わず名作であればあるほどあらゆる場面に馬を散りばめようとする傾向が強いということは、我々がこの「競馬サブカルチャー論」を通じて繰り返し検証してきた通りである。このことは美少女ゲーム/ビジュアルノベル業界にも当然射程が及ぶ。現に、「Fate stay night」(2004年,TYPE-MOON)が直球勝負の馬賛美を惜しみなく繰り広げ、それに対して馬頭観音も加護を与えたという歴史的事実を、我々は既に知っているではないか。
 そして、我々には、もうひとつ知っていることがある。偉大なる寺山修司、曰く。競馬が人生の比喩なのではない。人生が競馬の比喩なのだ。つまり、直接描写されることがなくとも、馬は姿を変え形を変え、様々な比喩によって賛美されている。そして、名作であればあるほど、馬のために駆使される修辞も洗練極まっていく。競馬を知る我々に求められているのは、この世界に散りばめられている馬に関する高度な言辞を発見することができるだけの愛馬心なのである。


 オーソドックスな解釈に従った場合の本作のあらすじについて、ここでもう一度振り返っておこう。
 ―主人公の折原浩平は幼少期に妹を亡くし、心に大きな絶望・孤独・虚無を抱える。悲しい現実を拒絶し、幸せな思い出の中に留まることを願った彼の幼い心は、あるひとりの少女のとの「盟約」をきっかけに、やがて現実世界とは異なるもうひとつの世界―「永遠の世界」を自らの中に作り出した。それは潜在的な「可能性」に過ぎない世界だったが、現実世界で浩平が他者と深い絆を築こうとしたため、彼は現実世界に留まるか否かの二者択一を迫られることになる。
 やがて、彼を知るすべての人間が彼のことを忘れてゆき、絆を失った彼は「永遠の世界」へと呑み込まれてしまい、現実世界から消滅する。しかし、最後に浩平は元の世界へと戻ることを決意し、元の世界との間に残されたたったひとつの絆の力によって現実世界への帰還を果たす―。
 
 この"元の世界に残されたたった一つの絆"こそが、各シナリオのヒロインたちである。「永遠の世界」の醸し出す不気味さの一端は、"生きながらにして忘れ去られる"という設定の妙によるところが大きい。こうして全ての人々が浩平のことを忘れてしまう中、元の世界でたった一人、彼のことを忘れずにその帰還を待ち続けるのがヒロインの少女たちなのである。
「ココイチ」で普通に食べることができるのだが。(C)Tactics ある少女は避けられない別離を覚悟し、最後の瞬間まで笑顔のままでい続ける。別の少女は「永遠の世界」から彼が戻って来ないと確信しながら、それでも希望を捨てずただ静かに待ち続ける。浩平の帰還を待つ彼女たちの描写はシナリオによって様々なのだが、その中でも身も蓋もない別離を強いられたヒロインを挙げるとするならば、自称「乙女」の七瀬留美を置いて他にないだろう。
 
 そもそも七瀬留美は、前半部の恋愛パートにおいても、"口悪でがさつなスポーツ少女がひょんなことから「真の乙女」を夢見る"というキャラ設定が災いし、受難の連続だった。ある意味必勝なはずの(どんなだ)"通学路で出会いがしらに衝突!"という場面では、浩平に豪快に突き飛ばされた挙句、介抱もしてもらえない。クラスの人気投票があると聞けば、成績優秀をアピールするため躊躇なくカンニングする(なんだそれ)。ある時は裏山から転げ落ちて金網に激突し、またある時は画鋲に気付かず椅子に座って飛び跳ねる。クリスマス・イブの夜に浩平に連れ出され、これはデートだとホイホイついて行くと、涙を流しながらキムチラーメンを啜る羽目になる(真の乙女ならば、こんな仕打ちは受けないはずなのだが)。
 そんな彼女だから、せっかく恋仲になった後に訪れる浩平との別離―彼が「永遠の世界」に消える―に際しても、とんでもない不意打ちを食らう。このシナリオの浩平は、「この空の向こうに、その永遠の場所がある」とひとりごちすると、自分の消滅の予感を七瀬に対して何にも示唆しない。その挙句、いよいよ迫った「永遠の世界」行きにひとり焦る浩平から突然ドレスを送り付けられ、今すぐそのドレスを着て山下公園まで来い、と呼び出されるのである。それでも、彼女が律儀にドレスをめかしこんで待ち合わせ場所に向かってみると―。

七瀬「はぁっ…遅れたっ…」
七瀬「………?」
七瀬「って、あいつだって、来てないじゃない、まだっ…」
七瀬「まったく…」
………。
……。
…。
 (かなり中略)
………。
……。
…。
七瀬「あれ…?」
 
「えいえんはあるよ」
「ここにあるよ」
 

(「ONE〜輝く季節へ〜」七瀬留美シナリオより)

馬の蹄でも、嘶きでもない。(C)Tactics こうして、平日の真昼間からドレス姿山下公園にやって来た七瀬は、勝手に「永遠の世界」に旅立ってしまった浩平からデートをドタキャンされてしまう。しかも、彼女は、浩平がどうして消えてしまったのか、さっぱり分からないのである(あんまりだ)。
 ところが、にもかかわらず、七瀬は浩平を待つのである。それも、待ち合わせ場所の公園で、ドレスを着込んだままである。 「また、あの人…居るわね」「なにか妄想癖でもあるのかしら…」「あー、またあのヘンなお姉ちゃんいるよ〜っ!」 事情を知らない人から見れば明らかにただの不審者なのだが、それでも彼女は1年間、毎日のようにドレスに着替えて山下公園に赴き、待ち続けたのである。
 しかし、ついに彼女は待ち続けることに疲れ果て、浩平が迎えに来てくれることを諦める。浩平が贈ってくれたドレスもすっかり煤けてしまったから…。本作には六つの主要シナリオがあるわけだが、ヒロインが「永遠の世界」に連れ去られた浩平のことを諦めるという描写があるのは、この七瀬留美シナリオだけである。

…帰ろう
ずっとあたしがいなかった、現実に。
とりあえずこのドレスを仕舞って…
あいつとの時間をもう過去として終えるんだ…。
あたしは、ついに一歩を歩み出す。

 それは決して後ろ向きではない。否、むしろもっと早くそうすべきだった。かくも艱難辛苦を舐め続けた彼女の悲壮な決意を、誰が責めることができようか。こうして、彼女は浩平から別れるための第一歩を踏み出そうとする。―そのときである。

がだんがだんがだんッ!!
目の前の石段を勢いよく駆け上がってくる何かがあった。
 
「うおぉぉぉーーーっ…!」
 
馬の蹄でも、嘶きでもない。
あたしの目前で急ブレーキをかけたそれは、土埃をあげて、停止する。
「ぜー、ぜー、ぜー…」
「ぜー、ぜー…間に合った…」
「………」
 
そしてその自転車を駆るやつが言った。
「おまたせっ、お姫様」

 (  д)      ゜  ゜
 
 かつて「乙女」になることを夢見ていた、着古したドレスを纏う"お姫様”の前に現れたのは、喪服を着こなし、颯爽と自転車を操る―
 

" 白  の 王 子 様 "

 
だったのである。

「あ…」
そうだった。
約束して、待ち合わせてたんだっけ。
ついさっき、ふたりはそうして別れたんだっけね。

「馬」に二人乗りして、街を疾走する王子様とお姫様。(C)Tactics ―喧騒に囲まれた大通りを、“王子様”と“お姫様”は走り抜けていく。自転車、もといにふたりのりで、ひとりは喪服で、ひとりは煤けたドレスで。とんでもなく恥ずかしいふたりだったけど、べつに関係ない。楽しいことが先に待つときには、そういうもんなんだから。こうして、彼女は真の乙女になったのである
 
 煤けたドレスを着る少女を"お姫様"に変えることができたのは、1年という時空を飛び越えて"王子様"が現れたからである。確かに、よくよく考えてみると、このシナリオにおける消失前の浩平は「オレが、あいつの前に王子様として現れた、そのとき。…オレはオレとしてここに残れるんだと思う」と独白しており、「永遠の世界」からの帰還について伏線を張っていた。この点についてはこれ以上とやかく言うまい。そういうことになっているのだ。
 それでは、なぜ「永遠の世界」から帰還する浩平が"王子様"たり得たのだろうか。彼は一国の王族でもなければ、爵位も持たぬ平民に過ぎない。立ち居振る舞いを見ても、ダンスも満足に踊れず、着ているのはタキシードどころか喪服である。そんな彼に対してですら、"王子様"の二つ名を与えたもうた力の源泉こそが、だったのである。この際、彼が実際に跨っているのが本物の馬である必要はまったくない。大切なのは、彼が馬に跨らんと欲した気の持ちようなのである。
 
 我々は、どれだけ馬を愛していようとも、職住環境や経済的事情のため、本物の馬に触れ、乗馬の楽しみを享受する機会には決して恵まれてはいない。全国には、競馬場や乗馬施設がない地域の方が圧倒的に多いのだ。それでも我々は、テレビを観、ラジオを聴き、スポーツ新聞を読んで、声なき声でファンファーレを口ずさみながら本物の馬に触れようと手を伸ばし続ける。風を切り、光を浴び、まるで空を飛んでいるようだ、と言い伝えられる馬の背の乗り心地に想いを馳せているのだ。
 しかし、現実には、我々のすぐ側に本物の馬はいない。
 馬なんていなかったんだ…。
 ………。
 ……。
 …。
 それでも。それでもやはり、我々が馬を愛する気持ちを捨て去ることはない。たとえ本物の馬に触れることができないとしても、我々は馬のことを想い続けることができるのだから。それこそが、真の愛馬心というやつである。目の前に本物の馬がいなければ、そっと目を閉じて馬のことを想ってみよう。そして再び目を開けてみる。どうして今まですぐ側にあるこんな世界に気づかなかったんだろう。自動改札口は、ゲート。通学路の坂道は、坂路。道路のカーブは、第4コーナー。それなら、自転車は、馬だ。
 競馬に初めて心を奪われた若者ならば、誰もが一度は真似してしまう仕草や挙動。あの武豊騎手だって、駅の自動改札をゲートに見立ててスタートの真似事をしているのだ。今さら、何のためらいがあろうか。この身は馬上になくとも、その心は鞍上にあって千里を駆け巡る。自転車を漕ぐときに感じる風は、同じ大気の下を疾駆する馬の切る風と変わらない。
 
 このように、実は本作の主人公・折原浩平とは、馬に跨らずして、馬に跨るという、真の愛馬心を持つ者だけが実践できる境地に達したホースマンだったのである。剣の極意が無刀にあり、ボクシングの究極がノーガードにあるのと同じである。真のホースマンである彼が一たび自転車に跨れば、それが馬である。だからこそ、彼は"白馬の王子様"たり得た。
 心の中に馬を宿している限り、馬は常に人間の傍らにいる。本作には、そんな馬への純愛を賛美する普遍的なメッセージが込められているのだった。
 馬には、あるときは諦めを希望へ、またあるときは悲壮を勇気へ、そして何よりも人を純愛へと振り向かせる力がある。馬が果たした役割の大きさは、かくも計り知れない。
 そこに馬がいたから。馬は、常に人間の傍らに在る―。(文責:ぴ)

 http://fairydoll.net/log/200608_2.html#060829*2
 http://d.hatena.ne.jp/momdo/20060827*3
 http://blog.livedoor.jp/dream_real/archives/50588263.html*4

主な先行文献と参考資料

1.主な先行文献

・公式系
http://www.tactics.ne.jp/~nexton/one_full/
http://sv.force-x.com/~tactics/qtactics/one.htm
http://www.kid-game.co.jp/kid/game/game_galkid/kisetu/kisetu.html
http://www.movic.co.jp/book/2/02/02b_0001.htm
・史観
http://web.archive.org/web/20041030195950/http://www5.big.or.jp/~seraph/zero/spe10.htm
http://www.kyo-kan.net/column/eroge/eroge3.html
http://www.tinami.com/x/review/02/index.html
http://www.cuteplus.flop.jp/ncp/coco01.html
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%c8%fe%be%af%bd%f7%a5%b2%a1%bc%a5%e0%a4%ce%ce%d7%b3%a6%c5%c0
http://d.hatena.ne.jp/genesis/20050808/p1
http://d.hatena.ne.jp/hazuma/20041227
http://blog.goo.ne.jp/kamimagi/e/b7f7e99b589c35d37dba0c18fd54a356
http://d.hatena.ne.jp/genesis/20060406/p1
http://d.hatena.ne.jp/milkyhorse/20060417/p1
http://d.hatena.ne.jp/genesis/20050808/p1
http://d.hatena.ne.jp/milkyhorse/20060406/p1
・概要
http://www2.orions.ne.jp/kojima/eien/onekanoair.pdf
http://blog.livedoor.jp/nfs/archives/50417551.html
http://blog.livedoor.jp/nfs/archives/50736645.html
http://natsshow.blog11.fc2.com/blog-entry-61.html
http://www.pon-kotsu.com/game/pc/one.html
http://ftcom.xrea.jp/game/t3ken/one/one.htm
http://www016.upp.so-net.ne.jp/usitora/one.htm
http://www.actv.ne.jp/~uzura/timecapsule/oldbooks/omocha/act2/onetop.htm
http://www.bx.jpn.org/~yttlord/oka/index_o.html
http://f-guy.hp.infoseek.co.jp/amuse/oneiar.html
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/5494/down.html
・論考/シナリオ総論
http://www22.ocn.ne.jp/~pandemon/text/L.e_pre_e.html
http://tatuya.niu.ne.jp/review/one/eien.html
http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/index.html
http://astazapote.com/archives/200004.html
http://www2.odn.ne.jp/~aab17620/one_r0.htm
http://www.geocities.jp/kazu_aran/old/aran-one-opening.html
http://www5.big.or.jp/~seraph/zero/spe6.htm
http://www5.big.or.jp/~seraph/zero/spe5.htm
http://april1st.niu.ne.jp/column/one/index.html
http://owarikomaki.net/colum/eiennnomeiyaku.shtml
http://www22.ocn.ne.jp/~pandemon/text/U_ONE_index.html
http://homepage2.nifty.com/xgamestation/text/deep/one.htm
http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=890&uid=abcd1234
http://www.ann.hi-ho.ne.jp/cuteplus/ncp/cpg14.html
http://www.page.sannet.ne.jp/abe_t/about_one.html
・論考/シナリオ各論
http://www.actv.ne.jp/~uzura/timecapsule/oldbooks/omocha/act2/2top.htm
http://www.geocities.jp/sinobu_yuki_o/one.htm
http://www5.big.or.jp/~seraph/zero/spe2.htm
http://www5.big.or.jp/~seraph/zero/spe5.htm
http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/misutsuru.html
http://homepage1.nifty.com/daian/PSGD-syujin-orihara.htm

ONE ~輝く季節へ~ フルボイス版

ONE ~輝く季節へ~ フルボイス版

輝く季節へ

輝く季節へ

輝く季節へ(通常版)

輝く季節へ(通常版)

ONE?輝く季節へ?(1)

ONE?輝く季節へ?(1)

ONE?輝く季節へ?(2)

ONE?輝く季節へ?(2)

ONE?輝く季節へ?(3)

ONE?輝く季節へ?(3)

タクティクスMOON.&ONE~輝く季節へ~設定原画集

タクティクスMOON.&ONE~輝く季節へ~設定原画集

輝く季節へビジュアルファンブック (ASPECT CUTE)

輝く季節へビジュアルファンブック (ASPECT CUTE)

2.参考資料

  • 参考資料1

「しかし、この陽気に学年末テストなんて、カンベンしてほしいよなー」
「陽気とテストは関係ないんじゃない?」
「この、ふわふわとした空気のなかで緊張感を保つのはしんどいんだよ」
「まあ、それはそうかも」
「今日のテスト中、窓際のヤツが窓開けてよ、そよ風が流れ込んできて、まいったぜ」
「そう」
「浩之ちゃんって、集中力が持続しないほうだもんね」
「オレは瞬発力タイプなんだよ」
 アーケードにやってきた。
 ここを抜けるとすぐ公園があり、その公園を抜けると、もう家だ。
「待った」
「え?」
「昼メシを買う」
 オレはあかりを待たせて、ぽっかぽか弁当で適当なのをひとつ注文した。
 

(「To Heart」より、藤田浩之神岸あかりが下校途中で交わす会話の一例)

  • 参考資料2

浩平「そういえば、おまえさ…」
長森「なに?」
浩平「昔あだ名で、『だよだよ星人』って呼ばれてたことあったよな」
長森「それって浩平だけだよっ!」
浩平「ほら、おまえって必要以上に語尾に『だよ』つけるからな。思いだしたから、しばらくそう呼んでやろう」
長森「はぁっ…ばかなこと言ってないで、早く用意してよ」
浩平「鞄と制服をとってくれ、だよだよ星人」
長森「とってやんないもん」
 (中略)
浩平「今度は『もんもん星人』に変身しやがったなっ」
長森「『もん』だって、そんなに使わないもん。たまたま浩平がよく聞いてるだけだよっ」
浩平「両方とも今、使ってるじゃないか。ふたつ合わせて『だよもん星人』と命名してやる」
長森「ばかばか星人の言うことなんて誰も聞かないもん」
浩平「うっさいぞ、だよもん星人! 黙れ、ばかっ」
長森「うーっ」
浩平「ふかーっ!」
長森「うーーっ」
長森「…って、時間!!」
浩平「おっと、威嚇し合っている場合じゃなかった!」
長森「ほらっ、もう、急がないと遅刻だよっ!」
 

(「ONE〜輝く季節〜」より、折原浩平と長森瑞佳が朝のドタバタで交わす会話の一例)

  • 参考資料3

だけど、そんな平和な空気の中で、少しずつ現実を蝕むもう一つの世界があった。
最初は小さな違和感だった。
気にとめることもなかった夕焼けの街並み。
ふと雲を見上げたとき、オレの中で何かが警笛を発していた。
少しずつそれでも確実に存在感を増すもう一つの世界。
そして、抗うこともできずにオレの存在は流されていった。
その結果現実でのオレがどうなるのかは明白だった…。
浩平「……消えるのか」
ぽつりと自分で呟いた言葉が怖かった。
 

(「ONE〜輝く季節〜」より、上月澪シナリオにおける「永遠の世界」を予感させるシーンの一例)

  • 参考資料4

元気に頷いて、二人並んで校舎に戻る。
みさき「でも、大掃除は?」
浩平「サボる」
みさき「うん。私もさぼるよ」
浩平「よし。それでこそ先輩だ」
季節外れの日溜まりの中、今日から始まる新しい年。
先輩と二人で歩いて行く日常。
でも…。
 
  …あるよ…
 
みさき「どうしたの?」
 
  …えいえんはあるよ…
 
※この直後、「永遠の世界Ⅶ(帰り道…)」に場面が切り替わる。
 

(「ONE〜輝く季節〜」より、川名みさきシナリオにおける「永遠の世界」を予感させるシーンの一例)

  • 参考資料5

声は出ない。
意識が遠のいていた。
現実感が希薄になる。
為すすべもなく見上げると、空が近くにあった。
浩平「…もう一つの世界…」
浩平「その世界の空にも…」
浩平「…夕焼けが、あったらいいな…」
瞼がゆっくりと閉じられる。
目の前に広がるのは、闇。
視界から鮮やかな風景が消えて…。
背中から鉄の感触が消えて…。
空気を振動させる、校歌の演奏も消えて…。
そして、オレの存在も…。
 
…パタパタパタ。
廊下を歩く音。
ゴム底の薄っぺらい上履きが、無機質なリノリウムの床を歩く。
…パタパタパタ。
聞こえるのは、足音だけ。
ガラス越しの教室では、無人の机が整然と並んでいた。
誰もいない廊下。
ただ歩く。
足音だけを残して、階段を上がる。
そして、辿り着いた先。
重い扉。
立てかけられていた看板。
冷たいドアノブ。
…それを掴む。
冷たさも感じないまま、押し開ける。
 
目の前に広がった光景。
赤い世界。
ゆっくりと足を踏み入れる。
決して色あせることのない赤。
流れることのない雲。
…後ろから、優しい声。
振り返ると、一人の少女が佇んでいた。
そして、それが当然のことのように、オレの元に歩み寄る。
 
  「…永遠はあるよ」
 
そう呟いた。
だけど、オレが訊きたかった言葉はそんなものじゃない。
少女は、穏やかに微笑んでもう一度言葉を紡いだ。
オレの訊きたかった言葉。
切望してやまなかった言葉。
これから、思い出という永遠の中で、ずっとオレだけの為の言葉を…。
 
  「夕焼け、きれい?」
 
それが、永遠のはじまり…。
「えいえんはあるよ」
「ここにあるよ」
 

「ONE〜輝く季節〜」より、川名みさきシナリオ(Bad)における折原浩平・消滅シーンの一例)

  • 参考資料6

【真琴】「ねぇ…」
【祐一】「ん…」
【真琴】「なんだか、恐い…」
【祐一】「どうした」
【真琴】「よくわかんないけど…」
【真琴】「ひとりで寝てると、いつの間にかものすごく暗いところにひとりで居て…」
【真琴】「真っ暗でなんにも見えなくて…ひとりっきりなの…」
【祐一】「………」
 

Kanon」より、沢渡真琴シナリオにおける「暗い夢」のシーンの一例)

  • 参考資料7

カシャアッ!
耳障りな音とともに、視界が白くなる。
白い、というか、痛い…。
というか…まぶしい…。
声「ほら、起きなさいよーっ」
うーむ…そうか、朝か…。
だからまぶしかったのか…。
 

ONE〜輝く季節へ〜」より、長森瑞佳シナリオにおける「光」による演出の一例)

  • 参考資料8

オレは冷たくひえたドアノブを掴み、外に押し開けた。
扉を開けると、そこは赤い世界だった。
鮮やかな夕焼けが、いつもの景色を全く違うものに変えていた。
浩平「ふう…」
屋上に張られたフェンスにもたれかかり、空を見上げる。
真っ赤な天井が、白い雲を押しのけるように広がっていた。
浩平「明日は…いい天気だな」
夕焼けの次の日は晴れ。
どこかで訊いた覚えのある言葉を思い出して、何気なく呟く。
声「そっか、今日は夕焼けなんだ」
後ろから不意に声をかけられて、オレはゆっくりと振り返った。
女の子「あ、別にあやしいものじゃないよ」
そこには一人の女の子が赤い光を浴び、吹き抜ける風に髪の毛を押さえながら佇んでいた。
 

ONE〜輝く季節へ〜」より、川名みさきシナリオにおける「光」による演出の一例)

  • 参考資料9

七瀬「…ねへ、やふだお」
浩平「あ、ほんとだな」
七瀬の言うとおり、いつの間にか雨はやみ、雲の間から顔を覗かせた太陽の光を浴びて中庭は輝き始めていた。
浩平「帰るか」
七瀬「うん」
ただ、オレは、失われてゆくものだけに美しいことを知っていった。
浩平「うりゃっ」
わざと水たまりを踏んで歩く。
七瀬「折原、やめなって。ほら、裾汚れてるよ?」
浩平「そんなものは洗えば済むだろ」
それよりも、オレにはこの一瞬が大事なんだ。
 

ONE〜輝く季節へ〜」より、七瀬留美シナリオにおける「光」による演出の一例)

  • 参考資料10

その時に垣間見た茜の表情が…。
人の居ない場所で、雨にうたれて佇んでいた…。
かつての悲しげな表情に思えて…。
茜「…どうしたんですか?」
浩平「…いや、何でもない」
ただ…。
浩平「嫌な雨だよな…」
茜「…はい」
謝りたかった。
心から、謝罪したかった…。
何も知らず、オレのことを信じてくれる茜に…。
平日の、しかも雨の商店街は想像していた以上に寂しかった。
薄暗い通りに人の姿はなく、店先から洩れる微かな光だけが雨に濡れたアスファルトの地面に反射してぼうっと光っていた。
 

ONE〜輝く季節へ〜」より、里村茜シナリオにおける「光」に心情が仮託されたシーンの一例)

  • 参考資料11

オレたちはそのまま小道を経由して、中庭へと出る。
開けた場所に出ると同時に、雲間に隠れていた中空の月が鮮やかな黄色をまとって姿を現す。
満月の光に照らされて、白く舗装された地面がまるで舞台のように闇の中に浮かび上がる。
澪「……」
澪はその幻想的な光景を楽しそうに眺めていた。
浩平「…澪。本当は家まで送ってやりたいけど…」
澪「……」
オレにはもう時間が残っていない。
自分でも分かる。
かろうじて、この世界の縁に指一本でぶら下がっている自分の存在を。
澪「……」
 

ONE〜輝く季節へ〜」より、上月澪シナリオにおける「光」に心情が仮託されたシーンの一例)

*1:舞台探訪アーカイブ ONE〜輝く季節へ〜より。

*2:毎度レスして頂き恐縮です。今回はどうしてこんなことになってしまったのか、書いた本人も分かっていません。弄って頂けただけで充分ですよ?

*3:とりあえず、「どうして、そんなことするかなぁ…」ということで。公認。

*4:新鮮味があったとのこと。ありがたいお言葉です。