さようなら〜2002年供用停止種牡馬外伝その39「ファーディナンドの場合」

 JRHR日本軽種馬登録協会から2002年供用停止種牡馬一覧が公表されたのを受けて、MilkyHorse.comではニュースコンテンツ「文芸欄」の企画として、まよ氏@MilkyHorse.comの執筆による供用停止種牡馬の馬生を簡単に振り返る外伝を連載します。

 ファーディナンド[Ferdinand(USA)]→2002年9月1日用途変更

 1983年生。父は英国最後のクラシック三冠馬にして、20世紀最高の名馬の一頭のNijinsky。母は傍流血脈Himyar系のDouble Jayを父に持つBanja Luka。近親にサンファンカピストラーノ招待H(米GI)などを勝ったPrince True、サンタアニタオークス(米GI)などを勝ったHidden Lightがいる。

 現役時代は、2歳時はハリウッドフューチュリティ(米GI)3着。明けて3歳クラシック路線でも、サンラファエルS(米GII)2着、サンタアニタダービー(米GI)3着と一線級では壁があるように思われた。

 しかし、ケンタッキーダービー(米GI)本番では、Bold Arrangementや東海岸のステップレース・ウッドメモリアルS(米GI)勝ち馬のBroad Brushを抑えて優勝。名伯楽Charlie Whittingham調教師に初の米国クラシックの栄冠をもたらし、また、結果として名手Bill Shoemaker騎手にとっても最後のケンタッキーダービー優勝となる歴史的勝利となった。

 続くプリークネスS(米GI)では、ハリウッドフューチュリティ、サンタアニタダービーで後塵を拝していたSnow Chiefに再び敗れて2着。ベルモントS(米GI)は、このレースを4連覇中だったW. Stephens調教師擁するDanzig Connectionの3着に終わった。その後、年末のマリブS(米GII)を勝ったものの、米国最優秀3歳牡馬をSnow Chiefに譲ってしまう。

 しかし、明け4歳になると徐々に本格化。ストラブS(米GI)ではSnow Chiefの2着、サンタアニタH(米GI)ではBroad Brushの2着と敗れたものの、ハリウッドゴールドC(米GI)を優勝。そして、キャリアのハイライトとなったBCクラシック(米GI)では、先に抜け出したこの年の二冠馬Alyshebaを相手に猛然と追い込み、ゴール寸前でハナ差交わす劇的な勝利を収めた。このレースでの強烈なパフォーマンスが評価され、米国最優秀古馬・米国年度代表馬の栄冠に輝くことになる。

 5歳時はサンタアニタH(米GI)2着、サンアントニオH(米GI)2着とひと息の成績。前年制したハリウッドゴールドC(米GI)でもCutlass Realityの3着に終わり、結局この年限りで現役を引退した。

 米国で種牡馬となり、フロリダダービー(米GI)勝ち馬Bull in the Heather、ナタルマS(加GI)勝ち馬Foxy Ferdieを輩出するなど、繁殖成績は悪くはなかったものの、期待されたほどの成績とはいえず、結局、日本に輸出された。1995年からの供用となった日本では、日本で活躍していたNijinsky系という血統背景から期待されたものの、結果は米国供用のとき以上に不振を囲うものとなった。東北ジュニアグランプリ勝ち馬のコンプリートアゲンや、岩手のオークスひまわり賞勝ち馬のラフレシアダンサーなど、岩手県競馬で活躍馬を出したものの、ついに全国区の活躍馬は出せないまま用途変更となった。

 用途変更後の消息について今年夏、米国の競馬マスコミによる報道で騒動が巻き起こったことは記憶に新しい。ファーディナンドが辿った末路を巡って交わされた議論について、ここで正否を論じることはできないが、今回の一件を通じて、引退後の名馬(あるいはサラブレッド全体)をいかに遇するべきかというテーマについて真摯な議論が深まっていけば、それがどのような結論を導くにせよ、ファーディナンドに対する慰めとなるのではないだろうか。