「ボクたちのノモケンが帰ってきた!」専門記者の競馬コラム―脅威か福音か ダーレー・ジャパンと日本競馬

 http://www.nikkei.co.jp/keiba/column/20050731e1h3101731.html
 日本経済新聞野元賢一記者による注目連載が更新されました。

 JRAに馬主登録を申請したのは、高橋氏ではなくDJ傘下の「ダーレー・ジャパン・ファーム」(以下DJF)である。申請は3月。JRAの馬主登録制度は、一般法人の場合、個人からの移行のみを認めているが、軽種馬生産法人については個人登録を経由しない申請を受け入れており、DJFはこの規定を援用した。

 野元記者が指摘している通り、軽種馬生産法人によるJRA馬主資格の取得には緩やかな特例基準が定められているのですが、ダーレー・ジャパンは、2002年に厚真町で開設され、IBBA胆振軽種馬農協にも加入している生産牧場です。そこで、ダーレー・ジャパンは、この軽種馬生産法人としての馬主資格の要件を満たすとして、中央競馬の馬主登録をJRA日本中央競馬会に対して申請していたそうです。実は、この一連の経緯については、野元記者の著書『競馬よ!―夢とロマンを取り戻せ』

競馬よ!―夢とロマンを取り戻せ

競馬よ!―夢とロマンを取り戻せ

に詳しく記載されていますので、興味のある方は読んでみてください(宣伝?)。ところが、

 6月23日付で出された高橋政行・JRA理事長あての日本競走馬協会(会長・河野太郎衆院議員)の要望書である。A4版4枚の文書は「高橋氏の登録申請の審査を、(中略)くれぐれも慎重にご判断いただきたい」「外国資本により支配された日本の株式会社の法人馬主登録に関しては、(中略)迂回(うかい)的手法を未然に防止するため、当該規程の改正等につきましても、早急に検討・実施されるよう強く要望する」という文言で結ばれている。
 …文書はJRAに、申請を認めないよう要請したものだ。

なる事実があったというではありませんか! JRHA日本競走馬協会といえば、セレクトセールを主催し、吉田照哉社台ファーム代表が副会長理事、岡田繁幸ビッグレッドファーム総帥が専務理事に就いているほか、最近では馬産家のビッグネームのみならず有力馬主や地元政治家までが役員に名を連ねている*1圧力団体です。その日本軽種馬協会がこ の よ う な文 書をJRAに申し入れたという事実を、野元記者は書いちゃっいました
 さらに、野元記者は、この文書申し入れの真意を求めてJRHA会長代行の吉田照哉氏に対する取材を敢行して(立ち話?)、

 吉田照哉会長代行「慎重にやれと言うこと。ダーレーを特定してうんぬんということではない。海外勢は有利な税制の下でやっている。これでフェアな競争と言えるか…。微妙な話だ。」

という発言を紹介すると、JRHA専務理事の岡田繁幸総帥についても、総帥がクラブ会報『Enjoy Ruffian』157号(2005年6月号)に寄稿した「巻頭言」から

 岡田繁幸専務理事「(ダーレー・ジャパンの)高橋氏は日本の競馬界への参入に関して、『生産者の刺激となり、ステップアップにつながる』とコメントしています。しかし、圧倒的な資金力を誇るマクトゥームファミリーに対抗できる力など、今の生産界にはないのです。」「完全にオープン化され、外国人馬主が認められれば、日本の高額な賞金を求めて海外のトップホースが押し寄せるはずです。世界で最もレベルの高いレースが展開されるでしょうが、国内の生産者や馬主は簡単に淘汰されてしまいます。」

という言質を引用して、行間を読むことを強く読者に喚起しています*2
 ところで、DJF(ダーレー・ジャパン・ファーム)による中央競馬馬主資格申請の顛末はというと、野元記者曰く、

 結論から言えば、登録申請は審査委員会に付されることなく、DJ側の判断で自主的に取り下げられた。日本の競馬サークルとの無用な摩擦を避けた形だが、本音はどうだったか。「殿下はこの件をどう考えているでしょう」と筆者が水を向けると、高橋氏は「天下のシェイクがコメントするような問題でしょうか?」と答えた。ここまで言われて恥ずかしいと思う感覚を、競馬サークルの何人が持ち合わせているか…。

という結果になったとのことです。そして、今回の事象に対する野元記者による警鐘なのですが、

 反対の急先鋒(せんぽう)は日高の上位クラスで、胆振や北海道外とは明確な温度差があった。基本的な図式は同じだが、今回は外資排除派の臆面もない主張が、半ば業界のコンセンサスとなってしまった。

 (ダーレー・ジャパンが)仮に馬主になれないまま、生産者ランクの上位を占めるようになったら、国内生産界は恥の上塗りである。

 優れたサラブレッドをつくる原動力は、潤沢な資金である。カネのない人は、草の根を分けてでも出してくれる人を探すべきなのだ。…(にもかかわらず、)カネのあるよそ者を排除しながら、自力で業界の縮小傾向に歯止めをかけることは出来ず口を開けばJRAに救いを求めるありさである。

というふうに、さすがにここでは引用し切れないくらいの筆運びで、辛辣なことこの上ありません。…これでは、「カネのない生産者が、ケチ臭い既存馬主と心中して、カネのあるスポンサーを排斥した挙句、ユスりタカりのたぐいまで仕出かして、自滅しようとしている」と書いているも同然ですね(書いているのは野元記者です)
 

ボクたちのノモケンが帰ってきた!

という感想が今の自分には精一杯です。これ以上は勘弁してください(←泣きたい気分)。

 追記:「諸般の事情から、中央競馬馬主資格日本国籍を有しない者に開放されていない」という事実を当然の大前提として、この記事は書かれています。あしからずご了承ください。 (文責:ぴ)

日本競馬市場はそんなに魅力があるのか

 http://fdtd.exblog.jp/2145007

*1:http://www.jrha.or.jp/jpn/01/yakuin.html

*2:もっとも、岡田繁幸総帥の件の発言では、当該引用箇所に続いて「外国へ開放する前に、まずは国内での「鎖国」をやめるべきです。地方競馬からも自由にJRAへ挑戦できるよう、門戸を開くことによって、内厩制度の弊害が改善され、地方のホースマンのモチベーションが高まり、地方の馬主も大きな夢を持てれば、セリなどでの馬の売買はもっと活発化し、生産界も息を吹き返します。」という主張が展開されていることに留意しなければなりません。