[中央]第55回安田記念(GI)|優勝:アサクサデンエン|父:シングスピール|生産:関口房朗氏

 6月5日に東京競馬場で行われた春のマイル王決定戦、安田記念(GI)は、7番人気の伏兵アサクサデンエン(牡6歳)[藤田伸二騎手、河野通文厩舎(美浦)]が、中団追走から直線馬群を捌き、ゴール寸前で前を捉えて優勝した。勝ちタイムは1:32.3。三連単は465,840円の大波乱となった。

 【JRA日本中央競馬会】 [4歳以上:東京・芝1600m:定量・晴・良]

 昨年の秋華賞(GI)勝ち馬ながら前走休み明けの都大路S(OP)で5着に敗れて11番人気と人気を落としていたスイープトウショウが、後方追走から直線一気の末脚で追い込みクビ差の2着。香港から遠征してきた香港史上最強のスプリンターサイレントウイットネスは、道中2番手でガッチリ抑え、直線一旦は抜け出したが、ゴール寸前で力尽きてさらにアタマ差の3着。

 以下、香港から遠征してきたチャンピオンズマイル(港LGI)勝ち馬ブリッシュラックは、後方追走から直線外を回して猛然と追い込んだものの、内目有利の馬場にも泣かされて4着まで。中山記念(GII)2着の父ミラクルアドマイヤ産駒カンパニーは、後方追走から直線差を詰めたものの5着まで。

 人気どころは、一番人気に推された昨年のこのレース2着のテレグノシスが終始外目を回される展開から、直線も外に回したものの伸びを欠いて6着。2番人気に推されたダイワメジャーは、好位追走からただ流れ込んだだけの8着。武豊騎手騎乗で4番人気のアドマイヤマックスは、中団追走も直線サッパリ伸びず12着。3番人気に推されたダンスインザムードは、好位追走も直線バッタリと脚が止まり、最下位の18着に沈んだ。

 勝ったアサクサデンエンは、父が現役時代に1996年のジャパンカップ(国際GI)などGIを5勝し、種牡馬としても2003年のドバイワールドカップ(首GI)で親子制覇を達成したムーンバラッドらを輩出して成功しているSingspielで、母が1997年のポモーヌ賞(仏GII)勝ち馬Whitewater Affair(母父Machiavellian)という良血馬。「フサイチ」の冠号で知られる大馬主関口房朗氏の生産で、馬主は「アサクサ」の冠号でおなじみの田原源一郎氏。2歳11月の東京開催で新馬勝ちし、続く特別も連勝。その後は脚部不安などによる休養を挟みながら条件戦を勝ち上がり、昨年暮れに準OPのクリスマスカップを勝ってようやくオープン入り。6歳となった今期は、勝ちきれないレースが続いていたものの、前走の京王杯スプリングカップ(GII)をレコードタイムで制して重賞初制覇を飾り、ここに臨んでいた。

 アサクサデンエンは、前走の京王杯スプリングカップは恵まれたものとして軽く扱われていた面があったようだが、二走前のマイラーズカップ(GII)を3着した内容から、ここへ来て力をつけてきていたことは確か。一長一短のこのメンバーなら展開一つで通用する余地は十分あったわけで、今回は鞍上の藤田伸二騎手の好騎乗もあって、キッチリチャンスを掴んだといったところか。ややスタートに不安定なところはあるものの、基本的には脚質自在でレース運びも安定しているだけに、今後も堅実な走りをしながら、うまく嵌まったときにチャンスを掴んでいきそうに思う。

 2着のスイープトウショウは、前走はスローペースで展開が向かなかっただけで、ここはいかにも人気がなさ過ぎた。とはいえ、牡馬相手にここまでやれたのは収穫で、今後に向けて視界が大きく広がった一戦といえるだろう。さらなる活躍を期待したいところだ。

 記者の期待したサイレントウイットネスは、ゴール前まで良く粘って見せ場はたっぷりだったものの、僅かに及ばずの3着。京王杯スプリングカップNHKマイルカップ(GI)の日と違い、この日は内目が有利ではあったものの、最内を通った逃げ馬はどれも最後で捕まっており、その意味でややタフな馬場だった(昨年の安田記念の日に近いイメージか)ことが最後に来て堪えたのかもしれない。とはいえ、初の海外遠征で大幅に馬体を減らし、しかも距離はギリギリと思われる1600m、初の坂コース、それに加えて必ずしも先行有利というわけでもない馬場状態という条件の中、ここまでの内容を見せるのだから、やはり能力は相当なものだろう。今後の予定は未定のようだが、もしスプリンターズS(GI)に遠征してくれば、圧勝まであるのではないかと思う。

 もう1頭の香港馬ブリッシュラックは、今回は外枠を引いたことが全てだろう。終始外外を回される展開では、この馬場では厳しすぎた。とはいえ、それでここまで追い込んでいるのだから、この馬も能力は高い。秋にマイルチャンピオンシップ(GI)に遠征してくれば、十分勝ち負けになるのではないか。

 カンパニーは、一応この馬なりのレースを見せてはいるが、馬場状態を考えるともう少し前でレースをしたかったところだろう。ただ、現状ではまだGIではパンチ不足ということだろう。

 人気のテレグノシスは、一昨年同様に外枠を引いたことが全て。しかし鞍上の勝浦騎手、何の工夫もなく終始外外を回って「何で伸びなかったのか分からない」とコメントされてはたまらない。今日の馬場状態を見れば、さすがに多頭数で外を回していては厳しいことは分かるように思うのだが。思えばようやく関東馬がGIを勝ったが、結局騎手は関西騎手だったわけで、2番人気でいいところなく終わったダイワメジャーの柴田義臣騎手といい、今回のレースは当分関東騎手がGIを勝つことはなさそうだということを改めて確認するレースとなったといえそうだ。

 人気の一角を占めたダンスインザムードは、昨年から気性面での成長が全く見られず、2着に健闘して新境地を開いたスイープトウショウとは対照的な結果となってしまった。この気性が改善されない限り今後は厳しいだろう。