アスコット・ゴールドカップ(英GI)直前展望―MilkyHorse.com本紙による分析と展開

 【MilkyHorse.com】 天皇賞・春(GI)勝ち馬イングランディーレ(牡5歳)[清水美波厩舎(美浦)]が出走する、ロイヤルアスコットのメインイベントの伝統の長距離戦、アスコット・ゴールドカップ(英GI)がいよいよ直前に迫ってきた。6月16日現在、出走予定馬は14頭。1番人気は3倍から2.75倍に人気が上がったMr.Dinos。イングランディーレは、ここへきて17倍から13倍に人気が上昇し、伏兵評価を得ている模様である。

―出走馬の紹介と分析―

 本命馬

 Mr.Dinos: Paul Cole調教師の管理馬で、父は1997年の愛・2000ギニー、愛・ダービーの二冠馬Desert King。2002年のロワイヤルオーク賞(仏GI)を制し、昨年のこのレースを制して、2003年のBHB賞英国最優秀長距離馬にBollin Ericとともに選出された。今期叩き2戦目となった前走はSandown競馬場のヘンリー2世S(英GII)でPapineauの2着。使いつつきっちり良化してきている。

 Godolphin

 Godolphin勢はSonglarkが回避して3頭出し。New South WalesとHighestがPapineauのバックアップに回る形となる。

 Papineau: 前走のヘンリー2世SでMr.Dinosを1 1/2馬身差下したGodolphinの新星。父はドバイワールドカップ(首GI)勝ち馬ムーンバラッドや、ローエングリンなどを出しているSingspiel。昨年はフランスダービー(仏GI)で5着に入る程度の馬だったが、ここへきて急速に力をつけてきている。

 New South Wales: 父はIn the Wings。昨年はゴドルフィンのクラシック候補生として期待を集めたが、GIではリュパン賞(仏GI)が7頭立ての6着、独・ダービー(独GI)が最下位の20着と期待を裏切った。今季初戦となった前走のヘンリー2世SはPapineauの3着。

 Highest: 父はSelkirk。ゴドルフィン勢の中でも素質を高く評価されながら、いまだ重賞未勝利と芽の出ない1頭。昨年のコロネーションカップ(英GI)でWarrsanの2着したのがもっとも惜しいレース。Ascot競馬場では下級条件で勝ち星があるものの、昨年のハードウイックS(英GII)は勝ち馬から5馬身差の5着。

 日本調教馬

 Ingrandire: ご存知、今年の天皇賞・春(GI)の勝ち馬。日本調教馬として初めてのアスコット・ゴールドカップ出走馬となる。父のホワイトマズルは、Ascot競馬場で行われるキング・ジョージ4世&クイーン・エリザベス2世S(英GI)で2着2回と好走している。

 フランス調教馬

 Westerner: 父は世界的名種牡馬デインヒル。Elie Lellouche調教師の管理馬。昨年のカドラン賞(仏GI)、ロワイヤルオーク賞を制した、フランスの現役最強ステイヤーで、1975年から1977年にかけて3連覇を達成した、フランスの歴史的名ステイヤーSagaro以来のフランス調教馬によるアスコット・ゴールドカップ制覇を狙う。今季はバルブヴィユ賞(仏GIII)1着、ヴィコンテスヴィジェ賞(仏GII)2着と順調に使われての出走。直前になって鞍上を巡るゴタゴタが起こったのがどう出るか。

 アイルランド調教馬

 1999年のEnzeli以来の勝利を目指すアイルランド調教馬は3頭出走。

 Vinnie Roe: 愛・セントレジャー(愛GI)を3連覇中のアイルランドの最強ステイヤー。2年前にRoyal Rebelのクビ差2着と敗れたレースの雪辱を狙う。父はDifinite Articleで、管理するのはDermot Weld調教師。今季初戦の準重賞を一叩きし、万全の体制で臨む。

 Brian Boru: 昨年の英・セントレジャー(英GI)勝ち馬。管理するAidan O'Brien調教師は、Excaliburの出走を見送り、この馬1頭で勝負を賭ける。今季はすでに3戦し、前走のコロネーションカップ(英GI)は5着。

 Chimes At Midnight: 2001年のカラカップ(愛GIII)の勝ち馬。かつては凱旋門賞(仏GI)にも出走したことのある馬だが、最近は障害レースとの兼用で走っている。現地時間6月15日の特別戦で約2年ぶりのレースを使って(29頭立ての24着)ここに臨むが、さすがに一変までは難しそうだ。

 その他の英国調教馬

 Royal Rebel: 父はRobert系のRobellino。2001年、2002年とこのレースを連覇し、今回アスコット・ゴールドカップ3勝目を狙う。連覇を達成した一昨年のアスコットゴールドカップ以来休養に入り、今年に入って復帰。2度使われているが、前走のヘンリー2世Sは7着。能力は折り紙付きだが、叩き3戦目でどこまで復調してくるかだろう。

 Darasim: Royal Rebelを管理するMark Johnston厩舎の2頭出しの1頭。父は、輸入種牡馬イルドブルボン(その後再輸出)の輸入前の産駒で1988年の英、愛・ダービーを連勝したKahyasi。昨年のカドラン賞の3着馬。今季はサガロS(英GIII)を叩いて臨んだ前走のオレアンダーレネン(独GIII)を快勝しての出走。裏街道を回っての参戦で人気はないが、Kahyasiは1999年の勝ち馬Enzeliを出しており不気味な1頭。

 Alcazar: 父はAlzao。昨年のサガロS(英GIII)勝ち馬で、ロワイヤルオーク賞2着馬。今季は一叩きして臨んだヨークシャーカップ(英GII)を2着しての出走。昨年のこのレースで最下位に終わっているのが気にかかるが、サガロSを勝っているのだからコース適正にはそう問題はないはず。巻き返しも期待できそうだ。

 Misternand: 父は1993年の仏・ダービー(仏GI)馬で、種牡馬としても2002年の仏・ダービーで親子制覇を果たしたSulamaniを出して成功しているHernando。管理するのはMick Channon調教師。デビュー以来下級条件を着実に勝ち上がってきたが、前走のヘンリー2世Sでは力差を見せ付けられる形での6着。さらに相手が揃うここでは苦しそうだ。

 Dusky Warbler: 父はEzzoudで、管理するのはMichael Bell調教師。デビュー戦のメイドンで後のドバイワールドカップ勝ち馬ムーンバラッドを負かして勝利(といっても降着による繰り上がり)。昨年のドンカスターカップ(英GII)2着、今年のサガロS2着はあるが、勝ち味に遅く重賞勝ちはない。ここも入着までか。


―まとめ―

 英・愛・仏・日の4カ国の名ステイヤーが一堂に会する豪華メンバーとなったが、中心にはアイルランドの最強ステイヤー◎Vinnie Roeを抜擢したい。とにかく年々充実していくレースぶりは大したもの。昨年の凱旋門賞でも5着に入ったように、12F路線の一線級とも互角に戦える底力は、ここでは一枚抜けている可能性もある。この馬を知り尽くしているパット・スマレン騎手が、悲願のタイトルをもたらしてくれそうだ。

 最大の強敵となるのは、やはり連覇を狙う○Mr.Dinosだろう。出走メンバーのスタミナは甲乙つけがたいが、実際にAscotの20Fで勝った経験があるのは大きなアドバンテージ。鞍上もここへきて絶好調のキアラン・ファロン騎手となれば、ここも大崩れはなさそうだ。

 一発があるとすれば▲Darasimか。Ascot競馬場初出走となったサガロSでは6着と敗れたが、これは一息入っての今季緒戦だったので仕方ない面はある。母父のHaloがどうでるかは微妙なところだが、父がこのレースの勝ち馬をすでに出しているというのは心強い。前走を快勝して上り調子で臨むのも強調材料で、力関係は微妙でも一気に頂点まで抜け出す可能性はあると見る。

 △イングランディーレの評価は正直難しいところ。欧州の長距離路線は10F〜12F路線に比べると一枚落ちるというのが正直なところで、単純な能力比較でいけばイングランディーレもこのメンバーでそう引けを取るとは思わない。決め手を身上とする最近の日本の長距離馬と異なり、スタミナとパワーで押す本格的ステイヤーというのも、ヨーロッパの競馬には合っているように思うし、父のホワイトマズルがキング・ジョージで好走しているのだから、馬場適正も問題はなさそうだ。ただ、Epsomの12Fや、Longchampの12Fほどではないにしても、Ascotの20Fというのはかなり特殊なコース。横山典弘騎手の腕に問題はないが、やはり経験の差がマイナスとなる可能性はある。互角以上の競馬ができる可能性も十分だが、まったく能力を出せずに終わる可能性もあるという意味で、連下の評価にとどめておくが、もちろん期待は十分だ。

 △Papineauは、ここへきての勢いに加え、フランキー・デットーリ騎手騎乗というのも大きな魅力。ただ、歴戦のステイヤーに混じって、Ascot競馬場の経験がないというのはやはりマイナス。不発のリスクも考えて、評価を落としておく。あとは使って状態が戻っていることを期待して△Royal Rebel、それに昨年のサガロSでコース適正を示している△Alcazarをマーク。フランスのWesternerは、ここへきての鞍上を巡るゴタゴタを嫌い、ノーマークとした。