「ならず者」の跳梁が皐月賞を脅かす!?―日本競馬に迫る危機!!

 1番人気ダンスインザムードの圧勝によって幕を開けた2004年クラシックロード。だが、順当な結果に終わった牝馬と違い、波乱含みとささやかれる牡馬。18日の皐月賞は、下手をすると日本競馬が「ならず者集団」に蹂躙され、取り返しのつかないレベルの低下を招く第一歩になるかもしれないという指摘がなされている。(夕刊ミルキー編集委員・シエ尻馬文)

 今年の牡馬クラシック三冠第一弾・皐月賞を直前に控えた競馬界だが、「今年の牡馬クラシックはおかしい」という声が、多くの競馬関係者たちから挙がっている。

 彼らに不安を抱かせているのは、サンデーサイレンス産駒の不振だ。産駒のデビュー以来、毎年クラシックへ有力馬たちを続々と送り込み、日本競馬の歴史を変えたといわれる偉大な種牡馬サンデーサイレンスは、数の上ではわずか18のゲートに8頭を送り込み、「さすが」と思わせる。孫も含めれば10頭で過半数だ。普通ならば「SS帝国に翳りなし」と言われて当たり前なのだが、今年はちょっと様子が違っている。

「例年なら、本命格には当然SS産駒の名前が挙がってきたはずだ。それなのに、上位人気にはブラックタイド1頭しか入ってきていない。これはたいへんなことだ。」(関西の競馬新聞関係者)

というのである。

 なるほど、馬柱を見ると、スプリングSを勝ったブラックタイドが2番人気に入っているものの、他の馬たちは軒並み低い人気にとどまっている。スプリングS、若葉Sでは5つの優先出走ワクを独占したSS軍団なのに、彼らに対する評価が低すぎる。

 SS軍団の人気を「食って」いるのは、「マイネル軍団総帥」として知られる岡田繁幸氏が率いる「マイネル軍団」の馬たちだ。クラブの馬は「マイネル」、岡田氏の家族が個人で所有する馬は「コスモ」という冠名を背負う岡田氏の馬だが、今年は5頭をゲートに送り込み、しかも1番人気が道営のコスモバルク、3番人気が昨年の朝日杯FS勝ち馬のコスモサンビーム、5番人気がきさらぎ賞ブラックタイドの足元をすくったマイネルブルックと、軒並みSS軍団を上回る人気を集めている。「こんなクラシックが過去にあっただろうか」と競馬記者たちが目を丸くするのも無理はない。

 「マイネル軍団」の異様な点は、その血統である。彼らの中でも上位の人気を占めるコスモバルクコスモサンビームは、どちらもザグレブ産駒だ。さらに、マイネルブルックスターオブコジーンマイネルデュプレペンタイア産駒で、サンデーの血を引いているのはフジキセキ産駒のマイネルマクロスだけ。「SSでなければ競走馬にあらず」という最近の競馬にはあるまじき血統が、妙な人気を集めている側面もある。

 しかし、これは日本競馬界全体のことを考えると、決して好ましいこととはいえない。「今年のクラシックは盛り上がらない」という声が、各方面から聞こえてくる。これは、「三冠を狙える」といわれるような大物の不在と無縁ではない。「中央不敗」といわれるコスモバルクは、道営ではしっかり負けている。コスモサンビームは、スプリングSでは5着と馬脚を現した。マイネルブルックマイネルデュプレといった馬たちは、「一発屋」の域を出ない。こうした馬たちが上位人気になるのでは、始まる前から「今年は三冠馬は出ない」と絶望するのも当たり前だろう。

 1990年代後半以降の日本競馬を引っ張ってきたのがSS産駒であることは、誰の目にも明らかだ。SS産駒の存在は、日本競馬の血統水準を引き上げ、高水準での切磋琢磨によってそのレベルを高めてきた。その過程の中で古臭い三流血統は淘汰され、クラシックは真にレベルの高い馬たちによるチャンピオン決定戦としての戦いが可能になったはずだった。ところが、今年の牡馬クラシックでは、淘汰されたはずの三流血統が跳梁している。心配するな、という方が無理な話だろう。

 「マイネル」「コスモ」の馬たちは、岡田氏の相馬ガンにかなった馬たちであるとされている。岡田氏の相馬ガンが昔から噂されていたことは事実だ。しかし、彼の長い競馬のキャリアの中で、実際にG1を勝ったのはマイネルマックスマイネルラヴだけ。これはブライアンズタイム産駒とシーキングザゴールド産駒で、三流血統とは言いがたい。それなのに今年のクラシックを騒がせているのがザグレブペンタイアスターオブコジーンの子という傾向について、ある血統評論家は

「サンデー産駒が絶不調だったことは間違いない。ただ、その間隙を衝いて出てきた
のがザグレブ産駒だったというのは、極めて危険な傾向だ。」

と指摘する。この人物は、

「サンデー産駒の活躍で上がったはずだった日本競馬のレベルも、しょせんは次の集
団がザグレブ程度だったということ。今年だけのことならいいのだが」

と嘆くが、それはもっともな話だ。2002年夏に死亡したサンデーサイレンスの最後の産駒は、2006年のクラシック戦線を走ることになる。それ以降の世代では、毎年のようにザグレブ産駒やペンタイア産駒が皐月賞やダービーを勝ちまくるとしたら、日本競馬の暗黒時代になるという指摘には、説得力がある。そうなれば、ジャパンカップは毎年欧米に賞金を持っていかれるだけの駄レースと化し、競馬人気も落ち込む一方になるだろう。岡田氏が率いる一口馬主クラブの「ラフィアン」は、「ならず者」という意味もあるという。「ならず者」の台頭が日本競馬の凋落を物語るとしたら、冗談にしても笑えない話だ。

 前述の血統評論家は、「三冠が期待できる大物感を残しているのは、SS産駒のブラックタイドだけ。今年の牡馬はレベルが低いという声を払拭するには、この馬が三冠馬になる必要がある」と締めくくる。これもサンデーサイレンスの偉大さが時代の中で突出しすぎていたゆえの悲劇である。

 この連載はフィクションであり、夕刊●ジ編集委員・シエ尻●文氏に捧げます。