競馬サブカルチャー論・第05回:馬と『ジャイアントロボ THE ANIMATION』〜熱き漢の魂の物語・序/世界は馬に救われた〜

ジャイアントロボ THE ANIMATION この連載は有史以来常に人間とともに在った名馬たちの記録である。実在・架空を問わず全く無名の馬から有名の誉れ高き馬まで、歴史の決定的場面の中において何ものかの精神を体現し、数々の奇跡的所業を成し遂げてきた姿と、その原動力となった愛と真実を余すところなく文章化したものである。

 ―馬は、常に人間の傍らに在る。

 その存在は、競馬の中核的な構成要素に留まらず、漫画・アニメ・小説・音楽―ありとあらゆる文化的事象にまで及ぶ。この連載を通じ、サブカルチャーの諸場面において、決定的な役割を担ってきた有名無名の馬の姿を明らかにしていきたい。

ジャイアントロボ THE ANIMATION より−

 来るべき近未来、人類は第三のエネルギー革命シズマドライブの発明によって、かつてない繁栄のときをむかえていた。だが、その輝かしい平和の陰で激しくぶつかりあう二つの力があった。

 世界征服を策謀する秘密結社、BF団。かたや、彼らに対抗すべく世界各国より集められた正義のエキスパートたち国際警察機構。…そして、その中に史上最強のロボットジャイアントロボを操縦する一人の少年の姿があった。名を、草間大作!!


 「ジャイアントロボ THE ANIMATION」は、横山光輝の漫画「ジャイアントロボ」を原作とする全7巻のOVAであり、1992年から98年までの間、約7年間にわたってリリースされた。

 この作品の監督を務めた今川泰宏氏は、「ミスター味っ子」「機動武闘伝Gガンダム」等の監督として有名である。「ミスター味っ子」で料理の旨さを表現するために「たかだか旨いカレー丼を食っただけなのに、旨さのあまりと口から炎を吐きながら巨大化し、大阪城を破壊する」という名シーンに代表される怪演出の数々でその名を売り、「Gガンダム」ではそれまでの「ガンダムシリーズ」の固定観念を打ち破り、「登場するロボットはすべてガンダム」「熱い野郎どもがハモり、回転する」「なぜか素手ガンダムを蹴散らす怪オヤジ」といった斬新な演出で停滞状態にあった「ガンダムシリーズ」に新境地を切り開き、シリーズの最高傑作に仕上げた人物である。

 もっとも、中心人物の今川氏がそんな調子だから、「ジャイアントロボ THE ANIMATION」も、「ジャイアントロボ」のOVA版といっても「BF団と国際警察機構の戦い」「主人公はジャイアントロボを操る草間大作」といった程度のごく基本的なプロット部分以外は、原作をまったく踏襲していない。登場人物は「三国志」やら「水滸伝」やら「マーズ」やらの横山漫画の有名無名の登場人物が縦横無尽に駆け回り、事実上は今川氏のオリジナル作品となっている。この点について批判はあるが、もともと原作版「ジャイアントロボ」が制作上の諸トラブルのせいもあって原作者である横山氏自身によって失敗作とみなされ、再版等も許可されない「幻の作品」として封印されていることを忘れてはならない。原作そのままのOVA化案では、そもそも横山氏の承諾を得ることはできなかったであろう。何よりも、「ジャイアントロボ THE ANIMATION」自体がそうした批判を踏み潰すに値する快作であり、今川監督の持ち味が十二分に発揮され、ツッコミ無用の圧倒的な迫力で視聴者を圧倒しているのだ。

 本作品には、「登場人物が回転する」「登場人物が一斉にハモる」「これでもかというくらい父子、兄弟が強調される」という今川氏独特の演出が随所に見られる。ただ、何よりも目立つのは、主人公の草間少年や彼が操るジャイアントロボではなく、超絶な能力を持つBF団幹部「十傑集」の1人・「衝撃のアルベルト」(声・秋元羊介)や国際警察機構の最高幹部「梁山泊九大天王」の一角を占める「神行太保・戴宗」(声・若本規夫)を筆頭とする「超人同士の超絶的能力の激突」である。衝撃のアルベルト以外の「BF団」の最高幹部たちが姿を現すのは6巻以降だが、次々と出現する悪の組織の幹部たち…スーツ姿の「策士・諸葛亮孔明」や「サニー・ザ・マジシャン」(サ○ーちゃん)、さらに「十傑集」たちの問答無用の怪能力、そして敵の首領「ビッグファイアさま」の正体等は、ファンを悶絶させる斬新な発想に満ち溢れ、日本アニメ史の中で異色の輝きを放つ作品に仕上がっている。


 しかし、この世界の中で、馬が極めて重大な役割を、しかもふたつもの場面で果たしていることに、果たしてどれほどの読者が気づいているだろうか。

 最初に馬が活躍するのは、2巻で「青面獣の楊志」が白馬に乗って駆けつけるシーンである。BF団の「衝撃のアルベルト」と「コ・エンシャク」に街が襲われていることを知った国際警察機構北京支部長官・「静かなる中条」こと中条長官は、

「私が打って出る!」

と出撃しようとする。だが、そんな長官の耳に、

「長官、それには及びません」

という声が聞こえてくる。周囲には誰もいないが、中条長官は、

「その声は…」

と、たちまち援軍の到来を悟った。…そしてシーンが切り替わり、白馬に乗った楊志が現場へ駆けつける。やがて楊志と白馬は二手に分かれ、楊志は屋根の上を軽快に飛びながら、白馬は道路の車の屋根の上を(!)渡りながら、アルベルトたちが暴れまわる現場に現れるのである。…そして、突然変化を始める白馬。なんと、白馬は国際警察機構のエキスパート・「公孫勝一清道人」が変化した姿であった。中条長官にテレパシー(?)で来援を伝えたのも、楊志ではなく一清道人だったのである。


 次に、馬が登場するのは、物語がクライマックスを迎える最終巻・7巻である。「マスク・ザ・レッド」、「素晴らしきヒイッツカラルド」、「直系の土鬼」といった十傑集の猛攻によって危機に陥る国際警察機構の本拠地・梁山泊は、国際警察機構に属するあるキーパーソンの特殊能力・巨大テレポートによって、梁山泊ごと要地・セントアーバーエーへ瞬間移動し、BF団の侵攻部隊に大きな打撃を与える。セントアーバーエーに移動した国際警察機構の兵士たちは、十傑集とは別にこのセントアーバーエーを目指していた復讐鬼・「幻夜」が操縦する最終兵器「大怪球フォーグラー」との最終決戦を前に、十傑集との戦いで傷ついた仲間たちを必死で救出しようとするのである。

 そんな彼らの救助作業の中に、働く馬たちの姿と、

「救える者は、人馬を問わず救助しろ!

という兵士たちの叫びがはっきりと記録されている。さらに、馬はその後も、大怪球への警戒態勢を呼びかけるために急ぐ花栄と黄信を背にして、幻夜の最終目的地・セントアーバーエーの中心部へと走るという役割を担っている。


 その時、歴史は動いた。

 もし馬という生物が存在しなかったとしたら、公孫勝一清道人は馬に化けることができず、別の生物に化けるしかなかっただろう。だが、馬ほどに高いスピード、持続力を兼ね備えた生物は存在しない。公孫勝一清道人がチーターに化けていたとしたら、衝撃のアルベルトの襲撃現場にたどり着く前にばてていただろうし、牛に化けていたとしたら、どんなに必死に走っても、襲撃現場に間に合うことはなかっただろう。

 もし公孫勝一清道人と楊志が衝撃のアルベルトの襲撃に間に合わなければ、「静かなる中条」はやむなく自ら出撃し、衝撃のアルベルト、コ・エンシャクという強敵2人と同時に対峙しなければならなかった。だが、彼らが対峙すれば、双方とも無傷で済むはずがない。静かなる中条はおそらく○○○を破壊するほどの威力を持つであろう「生命と引き替えに放つその名のとおりの能力・ビッグバンパンチ」を放ち、衝撃のアルベルトも特技である究極の衝撃波で迎え撃つ…という展開になっていただろう。そうなれば、戦場となった北京は、それだけで壊滅していたに違いない。北京は、公孫勝一清道人が馬に化けて駆けつけたがゆえに救われた。つまり北京は馬の存在によって救われたのである。

 次に、セントアーバーエーでの最終決戦でも、巨大テレポートの発動前の梁山泊では、奇襲によって機先を制したBF団により、国際警察機構は大苦戦を強いられていた。「マスク・ザ・レッド」が操る岩石生物「ビッグ・ゴールド」はジャイアント・ロボを封印された草間少年たちを追い詰め、「素晴らしきヒイッツカラルド」の指パッチンによって放たれるかまいたちは容赦なく国際警察機構の建物やヘリコプター、兵士たちを切り裂き、「直系の土鬼」が率いる「血風連」は、救援に駆けつけた花栄、黄信軍を完全に押さえ込んでいた。それでも梁山泊が巨大テレポート発動まで陥落しなかったのは、国際警察機構の人馬一体となった防衛体制が機能したからである。

「救える者は、人馬を問わず救出しろ!」

という叫びも、彼らが馬の存在価値を知っていたからこその言葉と解される。

 花栄、黄信の最後の連絡も、もし馬がいなくて人力で走っていたとしたら、とても間に合わないままセントアーバーエーの中心部は大怪球に押し潰されていた。国際警察機構は今度こそ壊滅的な打撃を受け、草間少年とジャイアントロボも、最終決戦で決定的な役割を果たすことはなかった。幻夜は復讐を果たす一方で、シズマ・ドライブに隠された真実を知ることもなかった。最終決戦で展開される様々な光景…草間少年に攻め寄せる敵の怒涛の猛攻の中、次々と援軍が到着し、野郎どものハーモニーの中ですべて(…ではないにしても)の真実が明らかになるという「ジャイアントロボ THE ANIMATION」のクライマックスも、永遠に封印されたままだったのである。


 つまり―。

 馬のおかげで、北京は壊滅から救われ、国際警察機構は十傑集や幻夜の攻撃に屈服することなく陥落を免れたのである。BF団による世界征服の野望をくじく。これを偉業といわずして、なんというのであろうか。世界は馬に救われたのである。馬が果たした役割の大きさは、かくも計り知れない。

 ちなみに、「ジャイアントロボ THE ANIMATION」はOVAで完結したわけではない。今川監督の脳内では「ジャイアントロボ誕生編」「少年探偵金田一正太郎編」「動く大陸編」「史上最大の決戦 孔明対韓信編」「ドミノ作戦編」「バベルの篭城編」等から成る「ジャイアントロボ THE ANIMATION TVシリーズ」が構想されており、OVAはその中の一編に過ぎないという。「ジャイアントロボ THE ANIMATION」では2人しか登場しなかった「梁山泊九大天王」の全貌、諸葛孔明が策謀する真の作戦「GR計画」の真実、そして国際警察機構とBF団の首領・バビルにせ…もとい、ビッグファイアさまとの最終決戦は、そのTVシリーズで初めて描かれるという。

 今川氏は、これまでにも何度かこの企画をアニメ会社に持ち込んだものの、膨大な資金がかかるとして拒まれ、実現に至っていないと噂されている。実にもったいない話であり、競馬界にとっても重大な損失になっていると言わざるを得ない。もし「ジャイアントロボ THE ANIMATION TVシリーズ」が今川監督の手で製作されれば、馬はその場できっとさらなる活躍の舞台を与えられ、より美しく輝くに違いないのだから。

 原作者の故・横山光輝氏は、競馬を愛し、馬主としても知られていた。今川氏は、そんな横山氏の魂を理解したからこそ、馬に重大な役割を与えたとも解し得る。漢は漢を知る。美しい漢たちの魂に、私たちが応える方法はただひとつ。今川氏が監督を務める「鉄人28号」が現在テレビ東京系の深夜枠で放映されている。馬を愛する者たちは、そのDVDなど関連商品を次々と購入し、今川監督に「ジャイアントロボ THE ANIMATION TVシリーズ」の製作費用を稼がせなければならない。それは、競馬ファンの義務である。

 何はともあれ、そこに馬がいたから。馬は、常に人間の傍らに在る―。(文責:ぺ)

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