競馬サブカルチャー論・第20回:馬と『Kanon』その4〜主な先行文献の相関関係〜

競馬サブカルチャー論とは

 この連載は有史以来常に人間とともに在った名馬たちの記録である。実在・架空を問わず全く無名の馬から有名の誉れ高き馬まで,歴史の決定的場面の中において何ものかの精神を体現し,数々の奇跡的所業を成し遂げてきた姿と,その原動力となった愛と真実を余すところなく文章化したものである。
 「……」「だったら…」「ボクの…お願いは…」深い雪に覆われた街で語られる小さな奇跡―“思い出”に還る物語。―馬は,常に人間の傍らに在る。
 その存在は,競馬の中核的な構成要素に留まらず,漫画・アニメ・ゲーム・小説・音楽―ありとあらゆる文化的事象にまで及ぶ。この連載では,サブカルチャーの諸場面において,決定的な役割を担ってきた有名無名の馬の姿を明らかにしていきたい。
 ※本稿には,PCゲーム版の内容に関する強烈なネタバレが含まれています。本文に施されている注釈は,熟読したい人向けです。なお,ゲーム版を"水瀬名雪"→"沢渡真琴"→"川澄舞"→"月宮あゆ"→"美坂栞"*1の順でクリアした後の読者を想定しています(え)。
 
 1.Visual Art's/Key 『Kanon』より
 2."ジュブナイルファンタジー"としての「Kanon」
   1) 文芸様式としてのファンタジー
  1:「Kanon」におけるファンタジーの世界観〜"夢の世界"と"風の辿り着く場所"
   1) ヒロインたちの"幼さ"に関する傍論
  2:「Kanon」におけるシュブナイル的な主題〜"思い出"に還る物語
   1) 月宮あゆシナリオにおける"ジュブナイルファンタジー"の構成
 3.「Kanon」における"奇跡"のガジェット〜小さな"奇跡"の物語
  1:"奇跡"は月宮あゆの力による超常的な救済なのか
  2:多義的に用いられる"奇跡"という言葉(1)〜あり得ないはずの状態
  3:多義的に用いられる"奇跡"という言葉(2)〜超常的な救済
   1) 水瀬名雪シナリオの場合
   2) 月宮あゆシナリオの場合
  4:多義的に用いられる"奇跡"という言葉(3)〜日常の中にある非日常的な状態
   1) 久弥直樹・麻枝准両氏のシナリオ方向性の比較
  5:多義的に用いられる"奇跡"という言葉(4)〜日常的な,奇跡のように思える偶然
   1) 世界は果てしなく残酷で,果てしなく優しい
   2) あらゆる物語可能性に想いを馳せる
  6:あるヒロインが助かると,他のヒロインは助からない?
   1) "同一世界解釈/確定的過去共有"とは
   2) "多世界解釈/遡及的過去形成"とは
   3) マルチシナリオ解釈方法論に見る比較不能な価値の迷路
   4) 「Kanon」に見る"確定的な過去共有"の推測的未来
  7:それは,思い出のかけらが紡ぎ出す,小さな"奇跡"の物語
   1) 7年ぶりだね。わたしの名前,まだ覚えてる?
 4.馬と「Kanon」(←ここから読んでも無問題)
 5.主な先行文献の相関関係


主な先行文献の相関関係

ファンタジー様式論+ジュブナイル主題論

◆ファンタジー


ジュブナイル(シリアスドラマ)説*2

  • 源内語録「『Kanon』考察 序章 肯定・否定の根底にある,今日性の考察」(1999年8月,http://web.archive.org/web/20040313203053/http://www.erekiteru.com/gengoro/000020.html)
    • なぜ,肯定派と否定派の溝が埋まらないか?/物語における「今日性」をめぐる問題/オタクとは今日性に敏感な人種のことでもある/「Kanon」は原点回帰か,今日的か/「Kanon」に対する否定的な見地からの論評
  • 源内語録「『Kanon』考察 本章 「Kanon」とは表層のファンタジーとは裏腹のシリアスドラマである」(1999年8月,http://web.archive.org/web/20030711040412/http://www.erekiteru.com/gengoro/000021.html)
    • 表層でしかないファンタジーにはまると見えなくなってしまうKanonの主題/Kanonは過酷な現実からの逃避と克服の物語である/各シナリオの構造の解析/全シナリオにおけるあゆの別れの意味/この物語の語るテーマの意味するところ/否定的見地で語った物語の流れを見直す/「物語の純度」と「ゲームの達成感」から「奇跡」の意味を考える/物語構造から「Kanon」というタイトルを考える/Kanon考察本章のおわりに
  • 源内語録「『Kanon』考察 最終章 ゲーム「Kanon」から出発するサブカルチャーの社会論的断章」(1999年8月,http://web.archive.org/web/20040329102047/www.erekiteru.com/gengoro/000022.html)
    • Kanonのメッセージはどれだけユーザーに届いたのか?/メディアでのこのテーマの扱われ方/なぜ,少女達はこの問題から自由でいられるか?そんな閉塞した時代の男の子生き方は?/物語を棄てた作家達


◆"ジュブナイルファンタジー"説*3

  • 火塚たつや「『Kanon』構造分析〜ジュヴナイルファンジーの証明〜」(1999年9月,http://tatuya.niu.ne.jp/review/kanon/%5Bkanon%5D.html)
    • Kanon』構造分析 総論
      • 1.本論考の趣旨:本論考の動機/本論考の前提
      • 2.『Kanon』の「主題」と「様式」:ジュヴナイルファンジーの定義/ジュヴナイルという「主題」/ファンタジーという「様式」/ジュヴナイルファンジーの証明/『Kanon』のファンタジー/『Kanon』のジュヴナイル/本当のジュヴナイルファンジー
      • 3.『Kanon』の「構造」:ジュヴナイルの「構造」/ファンタジーの「構造」/「ねじれ構造」/少女のジュヴナイル
    • Kanon』構造分析 各論
      • 4.あゆが「帰還」した意味(あゆシナリオ):祐一のジュヴナイル/あゆのジュヴナイル/あゆシナリオ否定派を分析する/あゆシナリオのファンタジー
      • 5.秋子さんの交通事故とは,何だったのか(名雪シナリオ):まずは,個人的感想/秋子さんの交通事故が担った「機能」/私の提案「金の摘糸」
      • 6.栞の病気に「挫折」はあったのか(栞シナリオ)
      • 7.「まい」との戦い(舞シナリオ)
      • 8.「日本人」のファンタジー(真琴シナリオ):真琴シナリオのファンタジー/真琴シナリオのジュヴナイル/祐一があきらめた意味/祐一の「離別」


◆"ジュブナイル"+"ファンタジー"説β*4

  • 総論:フジイトモヒコ「Der Kanon von "Kanon"世界を呑んだ少女」(1999年11月,http://www22.ocn.ne.jp/~pandemon/text/Der_K_index.html)
    • 序論
    • 第1部 世界を呑んだ少女
      • 序文/第1章 状況整理/第2章 幽体離脱現象?/第3章 夢人(ゆめびと)/第4章 検証・あゆの夢日記/第5章 心理学の基礎講義/第6章 エス(あるいは子供)として
    • 第2部 AYU
      • 序文/第1章 世界観の復習と整理/第2章 Kanon全体の構造の整頓/第3章 赤いカチューシャ/第4章 『約束』が産み落としたもの/第5章 再統合(Reunion)/第6章 Kanon最大の謎,「天使の人形」と「『あゆ』の『探し物』」の関係/第7章 Deus ex machina(機械仕掛けの神様)と『母』水瀬秋子/第8章 永い夢の終わりに〜あゆ,その存在の意味〜
    • 第3部 Kanon
      • 序文/第1章 あゆのストーリーに見られるギリシア演劇的手法/第2章 『対位法』/第3章 Kanon? Fuga? タイトルの謎/第4章 哲学的(舞台的)対位法/第5章 音楽的(ストーリー的)対位法/最終章 無よりも絆を 永遠よりも流転を
  • 各論:フジイトモヒコ「Last examinations」(2000年9月,http://www22.ocn.ne.jp/~pandemon/text/L.e_index.html)
    • 序論
    • 第1回 ONE前提考察
      • はじめに/物語ということ/「過ぎていくものだから,それは大切なこと」 では,「過ぎないこと」はどういったこと?/【永遠否定=流転】⇔【流転否定=永遠】/ONEとKanonとの比較と,キーワード『絆』の継承
    • 第2回 §1,NAYUKI〜Bond〜 「わたしの名前,まだ覚えてる?」
    • 第3回 §2,SHIORI〜Time Limit,1〜 「起きないから,奇跡っていうんですよ」
    • 第4回 §3,MAKOTO〜Time Limit,2〜 「春が来て…ずっと春だったらいいのに」
    • 第5回 §4,MAI〜Break Eternity,1〜 「私は魔物を討つ者だから」
    • 第6回 §EX,SAYURI〜Cure〜 「相手に幸せを与えて,みんなで一緒に幸せになる」
    • 第7回 §5,AYU〜Break Eternity,2〜 「……約束,だよ」
    • 第8回 The last examinations
      • ONEの流れ/Kanonとの比較/ONE,Kanonにおける共通項/物語論から社会論へ/「永遠」への憧憬/ありがとう そして さようなら
  • 各論:フジイトモヒコ「『舞』〜タナトスの牢獄〜」(1999年10月,http://www22.ocn.ne.jp/~pandemon/text/mai_tana_index.html)


×


◇リアリズム文学的理解からの批判 

 

主な先行文献の相関関係

「奇跡」論

◆通説(「あゆ+舞+真琴のもたらす超常現象としての奇跡」構成)


×


◇麻枝シナリオ有力説(「気づいたらそこにあった奇蹟」構成)


◇久弥シナリオ有力説(「不確定・多義的な奇跡」構成)

 

主な先行文献の相関関係

マルチシナリオ論*9

◆通説(「同一世界解釈=確定的過去共有」説,ゲームシナリオ構成)


◆同一世界解釈=確定的過去共有のまま単一シナリオ構造を採ることへの問題意識


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◇有力説(「多世界解釈=遡及的過去形成」説,ゲームシステム構成)

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Kanon ~Standard Edition~

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Kanon ~Standard Edition~ 全年齢対象版

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Kanon ベスト版

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Kanon オリジナルサウンドトラック

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Kanon Arrange best album 「recollections」

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Re-feel ~Kanon/AIR Piano Arrange Album~

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Kanonビジュアルファンブック

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*1:水瀬名雪月宮あゆ美坂栞の順番だけは厳守されたい。

*2:様式についてはファンタジー説に立つことを前提にした上で,主題論に絞った論考を施しているという意味において,"ジュブナイル"+ファンタジー"説αと分類することもできよう。ただし,ファンタジーとしての様式美については無視する姿勢に終始しており,その分,主題としてのジュブナイル要素が極めてシリアスに強調されている。その背景としては,論者は「Kanon」のファンタジー要素を"奇跡のファンタジー"と捉えているふしがあるからだと思われる。

*3:ファンタジーとしての様式美にも着目する。ジュブナイルとしての構造を"失恋と成長=別離→挫折→克服"と定義し,ファンタジーとしての構造を"消失→帰還"と定義した上で,両構造の不整合を指摘する。問題は,論者の設定した両構造の定義やその当てはめがが適切か否かという点である。論者もやはり,「Kanon」のファンタジー要素を"奇跡のファンタジー"と捉えているふしがある。

*4:論者は,「Kanon」のファンタジー要素を"奇跡のファンタジー"に限られないことを考察し,ファンタジー様式とジュブナイル主題との整合性を見出すことに成功している。少数派かもしれないが,比較的穏健な見解といえよう。

*5:舞シナリオについて参考。

*6:対位法としての"Kanon"シナリオ構成について参考。

*7:名雪シナリオ"秋子さんの交通事故"について同旨。真琴シナリオ"けっこん"について同旨。

*8:佐祐理シナリオについて参考。

*9:"マルチ"のシナリオ論ではない。念のため。

*10:同一過去共有の完備性回避について重要な指摘。

*11:同一過去共有の完備性回避について重要な指摘。

*12:舞シナリオにおける同一過去共有の非歴史性について重要な指摘。

*13:主人公が何もしなくてもそれぞれなんとなく解決したという風には書かれていないという指摘。

*14:「同一世界解釈/確定的過去共有」を所与の前提とした場合の「Kanon」マルチシナリオ構成についての評釈の典型例。

*15:両定義を適切に要約している。

*16:既に終わってしまった,取り返しのできないことを用意しておくシナリオ構造という指摘。

*17:多世界解釈が制作者の意図として繰り込まれ明示されていない限り採るべきでないという指摘。

*18:Kanon」における「○○を選ぶと○○が死ぬ」問題は確定的過去共有とは別次元という指摘。

*19:「かくあったから,かくある」ではなく「かくあるから,かくあったのだろう」で充分という折衷的見解。「Kanon」にも妥当する。

*20:「共有ルートからツリー状に分岐する,というゲームの形式からは,作品内時間でゲーム冒頭部に相当する時点より以前での世界の固定,という作品内設定は導きにくい」という見解。

*21:「選択肢においては,選択の意味は事後的に決定される」という指摘。

*22:奇跡の連鎖が起こるべきだという主張。

*23:少なくとも物語上の因果によらなければならぬわけではないという主張。

*24:「よかったのかもしれないし,わるかったのかもしれないし,どっちでもないかもしれない」という折衷的見解。

*25:シナリオにおいてほとんどヒロインたちの交流がなく,個々のヒロインたちの物語が互いにクロスしていない点に着目する。