ダーレー・ジャパン・ファームがJRAによる馬主登録申請却下に対し不服申立て

 北海道日高町の競走馬生産法人、DJFダーレー・ジャパン・ファーム(高橋力代表)が、9月4日までに、JRA日本中央競馬会への馬主登録申請を却下されたことを不服として、行政不服審査法に基づく異議申立てを行った。
 これは、日本経済新聞の9月5日付朝刊紙面で報じられたもの。
 ダーレー・ジャパン・ファームは、世界有数の馬主として知られる、アラブ首長国連邦ドバイの首長シェイク・モハメド・アル・マクトゥームの事実上の日本における現地法人の1つである。今年の7月、昨年に引き続き*1JRAに対して馬主登録を申請していたところ、7月5日付で却下されていた(http://www.nikkei.co.jp/keiba/column/20060814a898e000_14.html)。
 なお、地方競馬においては、別の現地法人であるダーレー・ジャパン・レーシングが馬主登録を認められており、2005年の羽田杯、東京ダービーを制したシーチャリオットらを送り出している。
 今回の馬主登録申請却下については、その理由が「財務上の問題」(Racing Post)と報じられたことなどもあり、国の内外で少なからぬ疑問の声が挙がっていた。これに関連して、米国の競馬雑誌"The Blood-Horse"の記事(http://www.bloodhorse.com/articleindex/article.asp?id=34355)に対し、高橋政行JRA理事長名義で、報道内容が事実と異なるという抗議ならびに経過説明が投稿されたという(http://blog.livedoor.jp/poo0801/archives/50751714.html)。
 従来、ダーレー・ジャパン・グループは、「日本の競馬界ならびに馬産界に貢献したい」という立場を表明し、昨年、結局周囲の反発を理由に馬主登録の申請を行わないなど、可能な限り波風を立てない方法を取ってきたように見受けられる。今回、JRAに対する不服申立てを行ったという報道が事実であるとするならば、「波風の立つ」手段を用いてきたとも受け止められうるだけに、ダーレーグループ内部で何らかの方針変更があったのか、その背景が気になるところである。(文責:ま)
 
 ちなみに、日本経済新聞9月5日付朝刊の記事ではダーレー・ジャパン・ファームによる不服申立てが「行政手続法に基づく不服申し立て」として行なわれたと記載されていたが、行政手続法に不服申立てに関する条項は存在しないので、おそらくは"上級行政庁を観念できないみなし行政庁"としてのJRA日本中央競馬会を相手取った行政不服審査法6条所定の異議申立てがなされたことを誤記したものと思われる。
 今回の発端となったJRAによる馬主登録申請却下は、日本中央競馬会競馬施行規程8条10号所定の中央競馬馬主登録の拒否事由「調教師に競走馬を継続的に預託することが困難であると認められる者」に該当するという理由に基づくものと推定されるが、JRAは馬主登録申請を却下する決定を行うに際しては、その理由を書面で示さなければならず、しかもその理由は審査基準を数量的指標その他の客観的指標によって根拠付けられる程度に具体的でなければならない(行政手続法8条)。上記の日本経済新聞サラブnet」の記事が事実だとするならば、高橋力DJF代表に対するJRAからの"公式説明"がないこと自体に違法のおそれがある。
 上記の"The Blood-Horse"報道とそれに対するJRAの反論が事実だとするならば、それ相応に具体的な査定が行なわれたことは間違いなく、異議申立てが容れられるためには、企業会計等を巡る専門的な見解の相違が争点となる公算が大きい。他方で、上記の日本経済新聞サラブnet」の記事が事実だとすると、JRHA日本競走馬協会その他馬主団体の反対が却下の実質的理由だったことになりかねず、法令の要件(日本中央競馬会競馬施行規程8条)以外の事情を考慮した"他事考慮"を理由に当該却下処分を取消すべき余地が生じる。
 今後の見通しだが、ダーレーによる異議申立ては学識経験者によって構成されるJRA審査会に付託され、90日以内にその認否が決定されることになる(日本中央競馬会法18条の2、日本中央競馬会法施行規則2条の3)。もっとも、JRA審議会は最初の馬主登録申請を却下した審議機関でもあるので、特段の事情がない限り判断が覆ることはないだろう。そして、異議申立てが再度棄却されたときは、JRA日本中央競馬会を相手取って裁判(行政訴訟)で争うことになると思われる。そこまでこじれると、JRA審査会やその前置審査機関であるJRA馬主登録審査委員会(馬主団体代表も構成員)の議事録や審議経過を詳細に明らかにする必要に迫られることにJRA側はなりかねず、見世物として面白い、もとい馬主資格のあり方について高度に専門的な議論が交わされる契機となることだろう。(文責:ぴ、へ)

*1:昨年は、馬主界などの反発が強いことなどが報じられたためか、実際には申請を行わなかった。